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医療技術部門

処方薬の安全で適正な使用を目指した運用

―薬歴表処方箋とお薬カレンダーのコラボレーション―

医療法人渡辺会大洗海岸病院 薬剤部1)
医療法人渡辺会大洗海岸病院 看護部2)

新井 克明1) ,中村 薫1) ,大内 泉1) ,清水 範子1) ,黒澤千枝2)

近年、医薬品の安全管理がますます求められていますが、病院内においては薬剤師のみならず、医師、看護師、医事課の職員など多くの職種の人たちが薬剤に関与します。このような状況下で、薬剤部のみで医薬品を厳格に管理しても安全管理全体から見ればあまり意味のない努力になってしまうことも多くあります。

薬剤に関するリスクが発生するタイミング

そこでわれわれは、処方箋発行から調剤・与薬までに発生する多くのリスクを排除し、さらに患者様が自宅に帰ってからも薬剤の正しい自己管理ができることを目指した病院全体で行う運用を整備したので報告します。

薬剤に関するリスクが発生するタイミングには、大きく分けて4つの段階があります。「入院した時」、「入院期間中」、「退院の時」「退院後の在宅において」です。このいずれの段階においても多くのリスクが潜んでいます。

薬剤情報提供書・薬歴表の問題点

各段階のリスクを洗い出してみると、まず、患者様が持参薬をもって入院してきた時には、薬剤を鑑別して書類により医師にその内容を提供しています。しかし薬剤師がいかに努力して立派な鑑別書類を提供しても医師が処方箋に転記するときに転記ミスをすればその努力はすべて無駄になってしまいます。さらに発行された処方せんに多くの疑義や「わな」が隠されていることを薬剤師であれば知らない人はいません。そして薬剤師は、発行された処方を随時確認して薬歴表を作成しますが、リアルタイムには作成できず、タイムラグが発生します。その間に事故が発生する恐れがあります。また医師をはじめとした薬剤師以外の他職種は薬歴表をあまり利用しないため、効果が十分に発揮できないという問題もあります。

処方箋の問題点

そのうえ、処方箋の書式自体にも問題があります。

薬剤師は調剤するとき、一日量を確認して、用法・用量を確認して、投与日数を確認して、各薬剤間の相互作用まで確認して

調剤しなさいと教えられていますが、それだけでは事故は防げません。

なぜなら、投与開始日は多くの処方箋に書かれていないし、もし途中で中止しても処方箋にはその情報が反映されません。中止情報が薬剤師に伝えられない場合もあります。さらに臨時、定時処方箋が別用紙で何枚も発行されると調剤時に相互作用を確認するのもたいへん難しくなってきます。

このような書類が完成された書類と言えるでしょうか?実は、現在の処方箋はその書式に問題があるのではないかと考えました。

与薬時の問題点

そして、薬剤師が努力してここまでのリスクを完璧に管理できたとしても、病棟へ送った薬剤が間違った配薬をされたり与薬でミスが発生すれば、今までの努力は全て無駄になり、薬剤師の業務に対するモチベーションも一気に低下してしまいます。病棟で看護師が配薬・与薬するときにも次のような多くのリスクがあります。

  • 配薬に使う現在の与薬カートは、整理することだけを考えた作りで、配薬ミスを発見し難い。
  • 与薬カートから取り出した後、患者様に与薬するまでの間にミスが発生する。
  • 入院中の与薬は、効率よい仕事の流れを主に考えており、患者様が退院後に自己管理できるようになるためのサポートは、あまり考えられていない。
  • 薬剤師が毎回服薬指導しながら与薬すれば良いが、看護師の人数に比べて圧倒的に薬剤師が少なすぎる。

大洗海岸病院ではこうした各段階における問題点とリスクを一つずつ改善して、それを病院全体・各職種全体の取り組みと捉えて連携をとってきました。

薬歴表処方箋Ver.6

まず、院内で発生する書類を薬歴表処方箋 1枚 に整理しました。具体的には「持参薬報告書」、「錠剤鑑別報告書」、「定時処方箋」「臨時処方箋」「薬歴表」「薬剤管理指導の実施記録」これら全てを薬歴表処方せん一枚にしました。薬歴表処方箋とは、表形式の処方せんで、左側半分には今まで通りの薬品名、用法、用量が記載できるようになっており、右側半分は薬歴カレンダーになっている処方箋です。

通常の処方箋の項目に加えて薬歴カレンダー部分に開始、中止、終了が書き込めるのが特徴で、医師が処方を出した時点で薬歴表が完成する仕組みになっています。薬歴表ですから服用中止の指示も処方箋で行われ、処方箋を見れば現時点での服用薬剤が正しく分かるようになっています。

持参薬に関しては、薬剤師が錠剤鑑別結果や代替薬などを直接処方箋に記載することにして、医師がカレンダーに継続や中止の指示を書き込むことで処方が完成するというルールに決めました。

薬剤管理指導の実施記録も、この処方箋上のカレンダーに記載するようにして、処方変更と薬剤管理指導の連携も取りやすいようにしました。

この薬歴表処方箋に変更したことで、処方箋発行と同時に完璧な薬歴表が完成することになったので、いままで解決できなかった次のようなリスクがすべて解決しました。

  • 持参薬報告書から処方箋への誤った転記がなくなりました。
  • 臨時処方と定時処方の相互作用を見逃さなくなりました。
  • 同種同効薬の重複もなくなりました。
  • 中止薬の誤った継続投与もなくなりました。
  • オペや検査前における、抗血液凝固薬の中止も正しく行われるようになりました。
  • 薬剤変更のタイミングに合わせた服薬指導が可能になりました。
  • 抗がん剤のプロトコルにあわせた開始や休薬などが処方箋で管理できるようになりました。
  • 週一回のみ服用する薬剤でも、処方もれがなくなりました。

薬袋・一包化の分包紙

次に、服薬するときのリスクである、

「患者様の薬剤の飲み間違い」と「看護師の配薬・与薬ミス」を防ぐために入院患者様の薬剤をすべて一包化調剤にしました。そして、薬袋と一包化の分包紙への表示を分かり易くしました。全て一包化にしたことで、薬剤師のピッキングミスも無くなりました。

具体的には、文字を大きくして、一包化の袋の一つ一つに「服用する日時」を印字しました。

そして、一包化の袋の中に入っている薬剤名も全て記載することにしました。

また、分包紙のいちばん最後の袋に確認用として処方内容と入っている錠剤のコードを印字しました。

お薬カレンダーを使った与薬方法

しかし、

せっかくこのように表示をしっかり整備して分かり易くしても、多くの病院で通常使われている配薬カート使って配薬をしていてはミスを発見しにくいので、配薬をした後でも印字がしっかり見えるお薬カレンダーに配薬することにしました。

更に、多くの患者様の与薬業務をしやすくするために、複数のお薬カレンダーをハンガーの様に何枚も吊るして、洋服だんすで服を選ぶように患者様の薬剤を探せるようなオリジナルのカートを試作しました。これを病室まで持っていき、毎回患者様と一緒に、薬を確認しながら与薬します。

自己管理可能と判断されたところで、お薬カレンダーをベッドサイドの壁に移し自己管理へ移行します。

結果

これら一連の改善の結果として
分包紙の印字文字を大きくしたことで、看護師や患者様が確認しやすくなりました。

お薬カレンダーにしたことで配薬セットがしやすくなり、ミスが減りました。

投与日服用時期を大きく印字したことで、お薬カレンダーにセットした時の投与日投与時期の縦と横の関係が良くわかり、セットミスにすぐに気がつくようになりました。

服薬を忘れた薬剤はカレンダーに残っているので、いつ飲むはずの薬だったかが分かるようになり、自己管理の患者様のノンコンプライアンスの指導もできるようになりました。

ヒヤリハット報告の減少

驚くべきことに、配薬・与薬をお薬カレンダー式カートを利用した方法に変更したことで、病棟の調剤薬関連ヒヤリハットが前年の 約1/4に減少しました。

自己管理達成率の向上

さらに注目すべきは、このお薬カレンダー式カートをベッドサイドまで持っていき患者様に自分で服薬する練習を毎日してもらったところ、自己管理できていなかった患者様の実に78.6%が入院中に自己管理が可能となりました。

お薬カレンダーを使った服薬の練習が、薬剤の飲み方を間違えて再入院してくる患者様の数を減らすことにつながりました。

病院内の運用を整備したことが、患者さまの在宅での薬の適正使用を成功させたのです。

整備された調剤薬の流れと役割分担

まとめです。

病院内で薬剤を事故無く適正に使用するためには、書類を整理して分かり易いものを作り、効率の良い運用を行なうことが重要です。

処方薬の安全で適正な使用のために、当院の薬歴表処方箋は多大な貢献をしたと考えます。

さらに、効率の良い安全な与薬業務と患者教育に お薬カレンダーが有用であることが分かり、薬歴表処方箋 と お薬カレンダー式カートのコラボレーションは、最終目標である在宅での薬の適正使用を達成するためのベストな組合わせになったと考えます。

提案するオーダリング入力画面

薬歴表処方箋は、オーダリング入力画面に応用することを最終目標に製作してきました。現在のオーダーシステムのようにウインドウが開くのではなく、処方作成時に薬歴を見ざるを得ないように入力する画面そのものが薬歴表になっているシステムです。

達成すればオーダリングの安全性と使いやすさが飛躍的に向上すると考えられ、協力業者を探しています。

開発中の「お薬カレンダー式カートVer.2」

また、お薬カレンダー式カートについては、製造業者のサカセ化学工業と使いやすい製品の開発に取り組んでおり、現在改良を加えた3台目のカートが完成間近で、病院のみならず医療スタッフの少ない老健施設などでの使用も検討中です。