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医療技術部門

お薬カレンダーの活用

医療法人渡辺会 大洗海岸病院 薬剤部
新井克明

今回は、お薬カレンダーについて話したいと思います。

お薬カレンダーは、患者さんが薬を正しく飲めるように考え出された便利グッズです。

いろいろな種類がありますが、壁に掛けることができるカレンダーにポケットが付いている構造になっており、薬を飲むタイミング毎にポケットに薬剤を入れて準備しておき、順番に飲んでいくと飲み間違いや飲み忘れを防げるというのが特徴の道具です。最も一般的なものは、壁に吊るしたカレンダー上部に、横に「朝・昼・夕・寝る前」というように一日のうちの服用タイミングが表示され、左側には縦に「月・火・水・木・金・土・日」というように曜日が表示され、一週間分のポケットが碁盤の目のように配置されているものでしょう。

飲み間違いや飲み忘れを防ぐための道具には、他に配薬ボックスなどもありますが、お薬カレンダーは壁に掛けられるので場所をとらず、配薬した薬を視覚的に確認できるようになったという点では配薬ボックスの更に進化した形ということができます。配薬ミスはないか? どこまで飲んだか? いつ飲み忘れたか? などが明確に分かり、自分だけでなく家族にも服薬をチェックしてもらえることが利点です。お孫さんに「おばあちゃん薬飲んでないよ」と指摘されてあわてて飲んだ。などという話も、患者さんから聞きます。欠点は、ポケットに入れることのできる薬の量がポケットの大きさや材質に制限されることや、持ち運びに向いていないことです。

我々薬剤師は、お薬カレンダーは薬の正しい服用ができない患者さんだけが利用する道具だ、と、どうしても考えがちです。薬の飲み方を良く理解している患者さんにはお薬カレンダーはいらない、と。その勝手な考え方が、患者のコンプライアンスの向上を阻んでいる原因であり、お薬手帳やお薬カレンダーの普及を邪魔している原因であるということに気づいていません。便利なものはどんどん利用するほうが良いのです。薬の飲み方を理解していても間違いはあり、面倒くさければだんだん意欲が失せていき、楽でないことは、人は止めてしまうものです。ノンコンプライアンスはこのような理由から起こっているのです。神様は、ちゃんと食事をしないと「お腹がすいた」という信号を出して生命を維持し続けられるように、生き物を作りました。

しかし、薬は飲まなくても飲みたいという気持ちが湧き上がってきたりはしません。できる患者もできない患者も本来だまっていればノンコンプライアンスに陥るものなのです。コンプライアンスを維持するためには努力が必要なのです。そう考えていくとお薬カレンダーは、薬を服用する患者さん誰もがあたりまえに使う道具であるべきで、これを使えば楽に意識せず良いコンプライアンスが維持されるものでなければなりません。そうでなければまだまだお薬カレンダーは完成さているとは言えず、進化させる必要がある道具だと考えます。携帯電話を例にとると、「電話は家で掛ければよいもの」とみんなが考えていたなら携帯電話はこんなに普及しなかったでしょう。「電話で写真が取れたり、音楽が聞けたりする必要が無い」と考えていれば、こんなに進化もしなかったでしょう。今のスマートホンも生まれてこなかったと思います。医療関係者も、少しでも患者さんの役に立つものを現場に取り入れ、更に全く新しいものを生み出していくという意気込みが必要だと思います。

薬剤師はもっと服薬支援に力をつぎ込むべきだと思います。薬剤師は知識を得たり自分のスキルアップに関する勉学には熱心ですが、作業や労働に対する意欲や向上心は近年停止しており軽んじている感じがします。医師や看護師に対するサービスには熱心ですが、患者に対するサービスはまだまだです。服薬支援に関心を示している薬剤師においても退院時の指導をした患者さんにお薬カレンダーを渡して満足しているようではだめだと思います。お薬カレンダーは、我々が思っているほど利用されていません。それは、使用する患者さんや家族が便利だと思っていないからではないでしょうか?

たとえば、PTP包装で調剤してお薬カレンダーを使うことを勧めても患者さんにとっては便利に感じないと思います。PTP包装では包装を一錠単位に切り離してポケットにセットすることになるので、PTPの誤飲事故を誘発しているようなことにもなりかねません。更に配薬を間違えた場合にも気づき難く、お薬カレンダーの長所を生かせません。お薬カレンダーを使うのであればやはり一包化するべきでしょう。そして、服用日や薬剤の名前を分包紙に印字してあげることです。最大の利点であるセットした分包紙の印字が良く見えて、配薬が正しくできていることを自分で確認できるようにしてあげることです。飲み忘れも自分で確認でき、正しい服薬をいつも意識し続けることができます。家族も簡単にサポートすることができます。

ここまでは、患者さんあるいは家族が在宅でお薬カレンダーを使うことをイメージしてお話してきました。在宅での適正な服薬を真剣に考えていくと、どうしても病院での薬の管理から退院後の薬の管理への自然な移行ができていないことに気が付きます。病院内での薬の管理は、「与薬カート」という複数患者の薬を仕分けできる配薬トレーの付いたカートを使って看護師などが行っています。しかし、退院と同時に患者さんは自力でお薬を管理しなければならなくなります。管理の仕方も全く変わってしまいます。週1回の薬剤管理指導や退院時指導を手厚く行なっても、何枚もの薬袋に入った多くの薬を、退院後に患者さんが適正に管理できるようにはなりません。共同指導をしてもしかり。退院後にお薬カレンダーを正しく使ってもらう為には、入院中も薬の管理をお薬カレンダーで毎回行い、そのまま同じ方法で在宅の薬の管理にスムーズに移行してもらうしか方法が無いと思うようになりました。

一般的な病院で使用している与薬カートは、決して使い勝手の良い道具ではありません。整理することだけを考えた作りで、一度に何人もの調剤薬を収納・整理できるという利点がある半面、ひとたび薬を配ってしまうと配薬ミスを発見しにくいという欠点があります。更に、与薬カートから取り出した後、患者に与薬するまでの間にとり違いミスなどが発生します。一方、素人である患者や家族がミスなく服薬を行えるようにするために考え出されたお薬カレンダーなら、プロの看護師が病院内で利用すれば、配薬・与薬ミス防止に、より一層の効果を発揮できるのではないかと考えました。

そこでまずはじめに、「看護師の配薬・与薬ミス」を防ぐために入院患者の薬をすべて一包化調剤にしました。一包化した分包紙への服薬タイミングの表示は大きく見やすくして、中に入っている薬剤名も全て記載しました。分包紙の一つひとつに「服用日」も印字しました。散剤についても同様です。印字を大きく見やすく、服用日を明確にした一包化調剤の分包紙をお薬カレンダーにセットすることで、配薬後の確認がとてもしやすくなりました。一週間分セットした薬をわずか十数秒で確認でき、次に飲む薬の確認や、飲ませ忘れで残った薬の確認も一目瞭然となりました。

さらに、たくさんの患者さんに与薬するのに便利なように、クローゼットにぶら下がっている洋服のようなイメージでお薬カレンダーを何枚もぶらさげることのできる移動式カート「お薬カレンダー式カート」を製作しました。

  1. ぶら下げるお薬カレンダーは、二枚背中合わせに空間ができるように張り合わせ、二週間分管理できるようにして、間にできた空間を薬袋や持参薬を保管するポケットにしました。その結果、患者の薬はできるだけ分散させず一ヵ所で管理できるようになりました。
  2. カレンダーから薬をとる時に間違わないようにするために、今回飲む場所の目印として「ここだよ」と書いた赤い札を用意して、服用のたびに次のポケットに移動するというルールを作りました。
  3. 飲むたびに手に取る赤い札「ここだよ」には、どうしてもカレンダーにセットできず別の場所に保管されている水剤や目薬などの薬品名や その服薬タイミングなどを記載し、与薬忘れを防ぐ役割も持たせました。
  4. お薬カレンダーの右上に患者の名前を記載したテープを貼り、テープは担当の医師別に色分けしたことで、ひと目で「患者名」だけではなく「主治医」まで分かるようにしました。

お薬カレンダー式カートはコンパクトに移動できるので、ベッドサイドまで持っていき、毎回患者と一緒に薬を確認しながら看護師が与薬する方法をとりました。この方法を毎日繰り返し行なったところ、患者の服薬方法の理解が進んだり、服薬に興味を示す患者が増えました。服薬方法を患者が理解できたと判断したところでベッドサイドにカレンダーを移動して自己管理へと切り替えました。

これら一連の改善の結果として、注目すべきは、今までの与薬方法では自己管理ができるようにならなかった患者の実に78.6%(3倍)が入院中に自己管理が可能になったことです。そして、お薬カレンダーを使った入院中の服薬訓練が、薬の飲み方を間違えて再入院してくる患者の数も減らすことにつながりました。

さらに、病院内の医療安全に関する効果としては、病棟の調剤薬関連ヒヤリハットが前年の約1/4に減少したという驚くべき結果になりました。

お薬カレンダーは、今では、折りたたんで旅行に持っていけるものや、本のように書架に置けるものなどいろいろなアイディアにより進化し続けています。病院内から在宅に至るまで、薬を事故無く適正に使用するために、お薬カレンダーを利用することの有用性は高いと考えます。そして病院や個人の利用に止まらず、医療スタッフの少ない療養や老健施設などでも意欲的に取り入れて有用性や安全性の向上に努めてもらいたいと思います。